個人事業主(自営業者)の廃業時の債務整理について弁護士が解説
個人事業主(自営業者)として事業を営んでいる方の中には、業績不振や健康上の理由などから、廃業を考える方もいらっしゃるでしょう。
しかし、廃業に伴って残される借金(事業用ローン、設備資金、仕入代金など)について、「どうやって整理すればいいのか分からない」「自己破産しかないのか」と悩む方も少なくありません。
法人企業とは異なり、個人事業主の場合、事業と個人の財産が法律上区別されないため、廃業後も個人として支払い義務が続くという特徴があります。
今回は、倒産と廃業の違いや、個人事業主の債務整理の方法や注意点について、詳しく解説します。
1 倒産と廃業の違い
倒産と廃業は似ているようで法律的には異なる概念です。
この違いを理解しておくことは、債務整理の選択肢を考えるうえでとても重要です。
1-1 倒産とは
倒産とは、資金繰りが行き詰まり、支払い不能となって経済的に破綻した状態を指します。法律上は、自己破産や民事再生などの「法的整理」と、支払い停止状態での「事実上の倒産」に分かれます。
1-2 廃業とは
廃業は、倒産とは限らず、自主的な事業終了も含みます。たとえば、高齢や体調不良によって事業継続が困難となった場合など、借金がなくても廃業することはあります。
つまり、廃業=倒産ではなく、廃業時に債務が残っているかどうかが債務整理の要否を決めるポイントとなります。
2 会社社長と個人事業主(自営業者)の廃業での事業借入支払義務の違い
法人の社長と、個人事業主では、事業借入に対する支払い義務の仕組みが根本的に異なります。
2-1 会社社長の場合
会社は「法人」として独立した法律上の人格を持つため、原則として会社の借金は会社自身が返済する義務を負います。
社長個人は原則として責任を負いません。ただし、社長が個人で連帯保証している場合や、社長が代表者個人名義で借入をしている場合には、例外的に社長に返済義務が及びます。
2-2 個人事業主(自営業者)の場合
一方で個人事業主は、事業と個人が法律的に一体とされます。したがって、事業資金の借入はそのまま個人の借金になります。
廃業しても借金は残り、個人として返済義務を負い続けることになります。
この点が、法人と個人事業主の最も大きな違いといえるでしょう。
3 個人事業主(自営業者)の借金返済方法
廃業後に借金が返せない場合、いくつかの債務整理の手段があります。代表的な方法としては以下の3つです。
3-1 任意整理
任意整理は、裁判所を介さずに債権者と直接交渉し、将来の利息カットや分割払いなどで和解を目指す方法です。
メリットとしては、①裁判所の関与が不要で、手続きが比較的簡便である点や、②財産を処分せずにすむことが多い点が挙げられます。
一方、デメリットには、①元本のカットは原則期待できないこと、②信用情報に事故情報が登録される(いわゆるブラックリスト)ことが挙げられます。
安定した収入があり、元本の返済が可能な場合には、任意整理は有力な選択肢となります。
3-2 個人再生
個人再生は、裁判所の手続により借金の元本を大幅に減額し、原則3年(最長5年)で分割返済する制度です。
メリットには、①借金を大幅に減額できる(最大で5分の1程度)点や、②住宅ローン特則を利用すれば自宅を手放さずにすむ可能性がある点が挙げられます。
これに対して、デメリットとしては、①裁判所を通すため、手続きが複雑で時間もかかる点、②原則として継続的な収入が必要である点が挙げられます。
事業資産は処分しても、自宅を守りたいという方には特に検討価値があります。
3-3 自己破産
自己破産は、裁判所に申し立ててすべての借金を帳消し(免責)にする手続きです。
メリットには、①借金がゼロになる(免責されれば返済義務がなくなる)、②無収入や少額収入でも利用できるという点が挙げられます。
一方、デメリットには、①高価な財産(車、不動産など)は原則処分される、②免責確定までの間、一部の職業(警備員、保険募集人、宅建士など)に資格制限がかかることがあるといった点があります。
返済が困難で、他の方法では立ち行かない場合の最終手段として有効です。
個人事業主の自己破産の詳細については、「個人事業主・フリーランスが自己破産するときの注意点」の記事をご参照ください。
4 借金があっても事業譲渡できる場合もある
廃業に際して、「店舗や顧客、在庫などを第三者に譲渡できないか」と考える個人事業主も少なくありません。
実は、借金が残っていても、一定の条件下では事業譲渡が可能なケースがあります。
たとえば、①債権者の同意が得られる場合、②譲渡代金を債務返済に充てる計画がある場合、③弁護士や税理士と連携し、適切な譲渡スキームを構築した場合などでは、廃業後も顧客や信用を引き継いで、事業が別の事業者によって継続される可能性があり、従業員や取引先にとっても望ましい選択肢となり得ます。
ただし、事業譲渡には法的・税務的な検討が不可欠なため、早期に専門家に相談することが重要です。
5 早めに弁護士に相談することで選択肢を増やせます
事業が行き詰まり、資金繰りが苦しくなると、「もうダメかもしれない」「恥ずかしいから誰にも相談できない」と思い込んでしまいがちです。
しかし、債務整理はタイミングが非常に重要です。廃業の時期、資産の処分状況、借入額や収入状況に応じて、取れる選択肢は大きく変わります。
早めに弁護士に相談すれば、事業を清算しつつも生活再建につなげる方法が見つかることがあります。
弁護士は、破産だけでなく任意整理や再生、事業譲渡など幅広い選択肢の中から、依頼者に最も適した方法を検討・提案することができます。
また、債権者との交渉や裁判所手続きの代理も任せられるため、精神的な負担も大きく軽減されます。
当事務所は、個人事業主の方の債務整理の実績が豊富であり、深い知見を持っています。ご状況に合わせて最適な債務整理方法をご提案することが可能です。
廃業をご検討中で、借金の支払いについてお困りの方は、ぜひお早めにご相談ください。